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SENPAI 15

先輩の私への想いの深さを測りたくて、私はいつも我儘を言っては先輩を困らせた。
振り回した。
先輩の言う、「私を好きだ」という気持ち、いつも「それじゃ、足りない」と感じていた。
もっと私を見ててよ。もっと私を欲しがってよ。もっと私に夢中でいてよ。
もっともっともっと。
まるで、砂漠のように、いくら水を与えても、私の渇きは収まらない。
まるで、口を開けて泣く雛鳥のように、どれだけ運び与えても、私のこころは満足しない。
私の中の気持ちは溢れ出し、行き場をなくして、いつも彷徨っていた。
先輩に向けて押し寄せる気持ち、そんな私の熱病のような想いを、
先輩はなんとか受けとめようとしていたように思う。
いつも逃げないで、懸命に受けとめようとしていた。
私も自分の熱情に押しつぶされそうで、苦しかった。
先輩も、きっと限界だった。

先輩は近くのコンビニで、深夜から翌朝にかけてバイトをしていた。
週に2日、平日に入っていた。
その2日は泊まりにいかないでいたのだが、ある日私はどうしても先輩に逢いたい衝動に
駈られて、夜中に先輩のバイト先に顔を出した。
2、3度先輩と一緒に飲んだことのあるSさんもバイトに入っていた。
「あ、うさぎちゃん、いらっしゃい~」Sさんの声に振り向いた先輩は、
私の姿を見てびっくりしていた。
「どうしたの?」
「逢いたくなって、来ちゃった」そう言って笑う私に、困った顔をした。
喜んでくれるかと思ったのに。私の予想は外れた。
「オレ、家に帰れないよ」
「うん、大丈夫。もうちょっとここにいたら、一人で先輩の家に帰るから」
私はSさんに言われるままに、スタッフルームに入ってコーヒーを飲みながら、
Sさんと話をしていた。
その間先輩は、客がいない店内を回ったり、レジに立ったりして、
こちらを振り向きもしなかった。
1時を回った頃、先輩が「悪いけど、ちょっと送っていってもいいかな」とSさんに声をかける。
「女の子ひとりで帰らせるわけにはいかないだろう~、行ってこいよ」
Sさんは快く留守を引き受けてくれた。
帰り道、先輩は無言で前を歩いた。
「怒ってるの?ごめんね」
「オレがバイトの時は、こないほうがいいよ。ひとりで部屋にいられないなら」
「うん・・・」
「こうやって送るのも、Sに迷惑掛けるしさ」
「私、一人で帰れるよ」
私がそう言うと、怒った口調になった。いままでそんなことはあまりなかった。
「そういうわけにはいかないだろう?Sだって心配する」
「・・・」
「うさぎ」先輩が改まって言った。
「今日のことだけじゃなく、オレはこれから先のことを真剣に考えなきゃいけない時期になる。」
「うん」
「そういうこと、分かってほしいんだ。それに、うさぎのためにもよくないよ」
「距離を置くっていうこと?」私は恐る恐る聞いた。
「そうじゃないけど。そういうことをもう少し分かってほしいだけ。
自分のセカイも、大切にして欲しいだけ」
私は、言葉が見つからなかった。
私のセカイってなに?私には、先輩しかない。
(先輩の言う「これから先」、そこに、私はいるの?)
その一言が、どうしても聞けなかった。
怖くて、どうしても聞けなかった。



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